ACL

ACLについて

 スポーツで生じる膝の怪我で最も復帰までに時間がかかり、さらに頻度が多い怪我の1つが前十字靭帯損傷です。当院では前十字靭帯損傷の治療において、1つの手術方法で対応するのではなく、いくつかの選択肢をもうけ、一人一人の患者さんにあった治療を選択しています。そこで一般的な術式、リスクの高い方、再断裂の方に対して行う術式、小児に行う術式についてここでは説明しましょう。

2022年度:17件
2023年度:22件

  • ハムストリング
     当院での第一選択の腱です。固定性も良好で術後に痛みや膝の曲げ伸ばしの制限が生じづらいためこちらを使用しています。
  • BTB(骨付き膝蓋腱)
     ハムストリングよりも初期固定力が強い、また再断裂率が少しだけ下がるという報告がある一方で、術後に膝の痛みや、膝の曲げ伸ばしの制限が生じやすいという報告もあります。そのため当院では第一の選択ではなく、再断裂や複合靭帯損傷(その他の靭帯損傷を一緒に生じている場合)、ハムストリングをよく用いるスポーツの時に使用しています。
  • Single bundle 一重束再建術
     世界では主に一重束再建術が行われています。その理由としては二重束再建術と比べて再断裂についての大きな差はなく、技術的にも容易であるためです。当院では身長の小さい方や、2本の腱で手術を行うのが困難な場合に行なっています。
  • Double bundle 二重束再建術
     この術式は日本で好まれている術式で、より解剖学的に近づけようというコンセプトのもと考えられました。正常の前十字靭帯は広い範囲で骨に付着しており、さらに2つの束が絡まって存在していると考えられています。そこでそれをできるだけ再現しようとしたのがこの術式になります。正常の膝により近いというコンセプトですが、様々な研究の結果としては一重束再建術と比較した場合に大きな差はないとも言われています。

そもそもリスクの高い方、再断裂しやすい方とはどういった方でしょうか?
1.年齢
2.関節弛緩性(関節のゆるさ)
3.半月板損傷
4.骨の形態異常、脛骨の後傾の角度> 12 °
5.そのほかの靭帯損傷
6.スポーツ種目(ハンドボール・バスケットボール・サッカーなど)
以下のサイトより実際にどのくらいのリスクがあるかというのを調べることができます。

https://acltear.info/acl-reinjury-risk/contralateral-acl-retear-risk (外部サイト)注.英語

 以前よりLET: Lateral extra tenodesis:外側補強術という術式はヨーロッパを中心に行われていました。当時は関節の中に正常に近い靱帯を作る技術がなかったため、外側で補強するという手術が行われてきました。関節の中で靱帯を作る術式とはことなり正常の膝を再現するということとは異なるため、日本では行われなくなりました。しかし、近年、一重束再建術や二重束再建術といった解剖学的な再建術を行なったとしても再断裂が生じること、また正常な膝に戻せていない、患者さんの満足度が高くないという報告があり、このLETを追加することでそれらを解決できるのではないかと期待されています。
 私が研修してきたカナダのFowler Kennedy Clinicを含めた多施設研究では一重束再建術にLETを追加することで再断裂率を低下させたという報告もあります。また私自身も留学中にLETを追加しても外側の関節の圧が上がらないという論文を投稿しました。
(Shimakawa T. Lateral compartment contact pressure does not increase after lateral extra-articular tenodesis and subsequent subtotal meniscectomy. Orthopedic Journal of Sports Medicine 2019)
当院では、再断裂・逆の膝の前十字靭帯断裂・再断裂のリスクが高い場合や外側の靭帯損傷がある場合には選択肢としてこの追加術を検討しています。

 若年者には骨端線とよばれる成長線があり、その成長が落ち着いて骨端戦が閉じてから手術を行うという考え方があります。これは手術で必要な骨のトンネルが成長線にかかった場合に成長障害となる可能性があるといわれているからです。しかしその場合には長期にわたってスポーツを禁止することとなります。例えば育成年代であれば体育や部活が数年間できなくなってしまいます。また、前十字靭帯損傷に対して手術を行わなかった場合には半月板損傷(膝の大事なクッション)をさらに悪化させるという報告もあります。特に子供の場合は運動を禁止することが難しく、半月板損傷が進みやすいという報告もあることから、当院では、成長線にトンネルを作らない方法で手術を行なっています。この場合成長障害をきたすことはありません。ただし個々の患者さんやその親御さんと相談しながら一緒に治療を選択しています。

 以上、当院ではさまざまな選択肢を持って、一人一人違う患者さんに対応していきます。1つの術式で全ての方に対応するのではなく、一人一人にあったものを一緒に考えていけたらと思っています。他院で相談されている方、手術に迷っている方、色々悩んでいる方ぜひとも外来に受診してご相談くださいませ。よろしくお願いいたします。